*TeX 以外の組版・レイアウトシステム [#l0ceef78]

TeX 以外の組版・レイアウトシステムについて紹介します。TeX との比較対象となる条件として、禁則処理は当然ながら、一行ごとではない、パラグラフ全体を考慮した改行位置の最適化、パターンマッチングによるハイフネーション処理、自動化されたリガチャ・カーニング処理などが挙げられます。
TeX 以外の組版・レイアウトシステムについて紹介します。TeX との比較対象となる条件として、禁則処理は当然ながら、パラグラフ全体を考慮した改行位置の最適化、ハイフネーション、リガチャ・カーニング処理などが挙げられます。

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#contents
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*オープンソース [#s9837f3b]

**[[Apache FOP:http://xmlgraphics.apache.org/fop/]] [#z9bf216b]

Apache FOPは、XSL-FOの処理系で、[[Apache XML Graphics プロジェクト:http://xmlgraphics.apache.org/]]により開発されています。PDF を含む様々な出力フォーマットに対応しています。Java による実装です。

2015年6月の段階では Version 2.0 のリリースノートがありますが、その配布物はバイナリもソースもないようです。実質 1.1 が最新のリリースとなっています。

***インストールと実行 [#w1d759d9]

まずは Java 実行環境が必要です。Java の準備が整ったら、[[ダウンロードページ:http://xmlgraphics.apache.org/fop/download.html]]から辿れるミラーサイトより、最新のものをダウンロードします。

とりあえず試すには、ダウンロードしたバイナリのアーカイブを展開し、展開したディレクトリに移動します。そして例えば、

    ./fop examples/fo/basic/simple.fo simple.pdf

のようにします。simple.pdf が生成されれば成功です。MinGW で

    エラー: メイン・クラスorg.apache.fop.cli.Mainが見つからなかったかロードできませんでした

のようなエラーが出る場合は、シェルスクリプト fop の 119 行目あたりを

    if [ "$OS" = "Windows_NT" ] ; then
      if [ -z "$MSYSTEM" -o "$MSYSTEM" != "MINGW32" ] ; then
          pathSepChar=";"
      else
          pathSepChar=":"
      fi
    else
        pathSepChar=":"
    fi

のように変えます。

実行時に設定ファイルを -c オプションで読み込ませることができます。設定ファイルのサンプルが conf/fop.xconf にあります。とりあえず、設定ファイルの

    <fonts>...</fonts>

の部分に

    <auto-detect/>

を入れましょう。こうするとシステムにインストールされたフォントを自動で検出してくれます。

インストールは好きなディレクトリに展開した内容を移すだけです。場合によっては FOP_HOME などの環境変数を設定する必要が出てくるかもしれません。

***文書の作成 [#o64708aa]

Apache FOP の入力は XSL-FO と呼ばれる XML 文書の一種です。先ほどの

    examples/fo/basic/simple.fo

の中身が参考になるでしょう。

***利点と制限・欠点 [#l80a7ea9]

利点は

-入力形式である XSL-FO は [[XSL:http://www.w3.org/Style/XSL/]] の仕様の一部として、標準化団体 W3C により開発され勧告として公表されています。
-SVG への対応。WEB 標準技術である SVG への高水準での対応は魅力的です。

欠点等は
-Apache FOP はフロートに対応していないようです。図表を使う際には大きな制限となるでしょう。
-PostScript系の OpenType フォントにはまだ対応していないようです。(2.0 から対応?)
-入力形式である XSL-FO は平易な解説資料に乏しいため、学習コストが高くなります。他の XML 形式から変換する場合もそれほど容易ではありません。XSL-FO の仕様そのものも、今後どうなるのか不透明なところがあります。
-国際化対応など、どの程度できているのか不明瞭です。縦組みなどは未対応な模様です。

***TeX との比較 [#k61aa916]

-[[Knuths Model:http://wiki.apache.org/xmlgraphics-fop/KnuthsModel]]
>FOP's line breaking and page breaking algorithms both implement Knuth's breaking algorithm.

-[[Hyphenation:http://xmlgraphics.apache.org/fop/1.1/hyphenation.html]]
>Apache™ FOP uses Liang's hyphenation algorithm, well known from TeX.

ということのようです。

**[[GNU troff:http://www.gnu.org/software/groff/]] [#s340bffc]

Groff(GNU troff)はプレーンテキストに文書整形用コマンドを埋め込んだ形式の入力から、整形された出力を行う組版システムです。DVI、PostScript や PDF などのページ記述言語、HTML、あるいは端末での表示用に ASCII/UTF8 での出力が可能です。最初は James Clark によって書かれ、現在は Ted Harding と Werner Lemberg によりメンテナンスされています。

**[[The Heirloom Documentation Tools:http://heirloom.sourceforge.net/doctools.html]] [#tf77c997]

こちらも troff です。OpenSolaris 版の troff をもとにしています。Gunnar Ritter により開発されています。C 言語による実装です。

特徴として、

-PostScript Type 1、OpenType、TrueType フォントが使えます。
-パラグラフの整形には Knuth-Plass アルゴリズムの変種を用い、パラグラフ全体に対し調整を行います。グリフ幅、文字間スペース、単語間スペースの調整などの microtypography 拡張を含みます。
-ペア・カーニングやトラッキングのサポート。
-ぶら下げ組み(Hanging characters)対応。
-国際化対応したハイフネーション。TeX の Liang アルゴリズムをもとに開発され、OpenOffice で用いられる Raph Levien の LibHnj を用います。

などがあります。PostScritp 出力が可能です。


**[[Patoline:http://patoline.org/]] [#vdc178df]

主に OCaml で書かれた組版システムです。LaTeX 風の独自入力フォーマットで PDF など様々なフォーマットで出力します。

**[[PDFJ:http://hp1.jonex.ne.jp/~nakajima.yasushi/]] [#f1452ce3]

Perl で実装された PDF 生成用のモジュールです。JIS X 4051 にほぼ準拠した日本語組版ルールを組み込んであるのが特徴です。

**[[SILE:http://www.sile-typesetter.org/]] [#va3c00e3]

Simon Cozens による、Lua で書かれた組版システム。LaTeX 風の独自の入力フォーマットと XML による入力で、PDF 出力です。[[Harfbuzz]] による OpenType レイアウト機能を備えており、日本語を含む様々な言語・用字系をサポートします。Lua により拡張可能です。

特徴として、

-フレームを用いた複雑なページレイアウトに対応する。
-高水準のプログラミング言語(Lua)によって組版エンジンを容易に拡張可能。
-XSL スタイルシートを用いずに直接 XML から PDF を生成できる。
-グリッド上でのタイプセット。

などがあります。作者の Simon Cozens は[[Perl で TeX の Kunth-Plass アルゴリズムを実装する:http://search.cpan.org/~simon/Text-KnuthPlass-1.02/]]など、TeX に強い影響を受けているようです。[[マニュアル:http://www.sile-typesetter.org/images/sile-0.9.1.pdf]]を読む限りでは、TeX のアルゴリズムを Lua へ移植したといった様相で、本格的なものです。また、[[Fontconfig]] を介したフォントアクセスで、TeX のようなフォント関連の煩わしさがあまりありません。

***インストール(MinGW32) [#r5f11a5c]

Linux や Mac へのインストールはパッケージ管理システムを使って依存ライブラリを整えて行けば、それほど苦労はしないでしょう。

ここでは Windows、特に MinGW32 環境へのインストールの概要を解説します。

***依存ライブラリ [#g916e4d4]

SILE 自身は OpenType フォントサポートに [[HarfBuzz:http://www.freedesktop.org/wiki/Software/HarfBuzz/]] に依存しており、これはまた様々なライブラリに依存しています。また、フォント・アクセスに [[Fontconfig]] を用います。SILE は XML 形式の入力を処理するために [[Expat XML Parser:http://www.libexpat.org/]] を利用します。これらは [[GTK+の配布サイト:http://www.gtk.org/download/win32.php]] からある程度そろえることができます。HarfBuzz や SILE をビルドするには Run-Time に加えて Dev パッケージも必要です。SILE の PDF 出力部は C言語で書かれており、libpng や zlib に依存するのでこれらも必要です。

必要な DLL がなくてプログラムがうまく起動しない場合は、

     objdump -p /usr/local/bin/libharfbuzz-0.dll | grep DLL

などで調べて、必要とされる DLL を探しましょう。

依存ライブラリの整備ができたら Lua の整備です。

***Lua と LuaRocks [#m4791203]

MinGW32 環境では、Lua を mingw-get で入れるのが簡単です。

    mingw-get install mingw32-lua

Lua のパッケージ・マネージャ [[LuaRocks:http://luarocks.org/]] を入れるには、まずWindows 向けのファイルを[[ダウンロード:http://keplerproject.github.io/luarocks/releases/]]し展開ます。その後、コマンド プロンプトを立ち上げ、展開したフォルダに移動し、インストールします。例えば、Lua 5.2 で C:\Lua\5.2\LuaRocks にインストールするには、

    install /P C:\Lua\5.2\LuaRocks /MW /LV 5.2 /TREE C:\Lua\5.2\LuaRocks

とします。インストール後に出る PATH の設定の指示に従って下さい。

Lua と LuaRocks がインストールできたら、いくつかの Lua パッケージを入れます。

    luarocks install lpeg
    luarocks install luaexpat EXPAT_DIR=C:\MinGW\msys\1.0\local

コマンド プロンプトから(mintty などではなく)実行します。

ここまでできてようやく SILE に移ります。

***SILE のインストール [#lc82b54b]

SILE の最新版は 2015年6月3日現在、0.9.2 です。[[公式ページ:http://github.com/simoncozens/sile/releases/tag/v0.9.2]] から sile-0.9.2.zip を取ってきます。展開したのち、configure スクリプトを実行しましょう。環境変数 CFLAGS や LDFLAGS を設定する必要があるかもしれません。また、注意点として、C:\MinGW\msys\1.0 を /usr にマウントしており、/usr/local 以下にインストールする場合は、

    ./configure --prefix=/MinGW/msys/1.0/local

のようにする必要があります。0.9.2 では、libtexpdf のソースに以下の修正を加える必要があります。

    --- libtexpdf.h.orig    2015-06-05 01:13:10 +0900
    +++ libtexpdf.h 2015-06-05 01:13:23 +0900
    @@ -100,10 +100,5 @@
     #include "type1.h"
     #include "type1c.h"
     #include "unicode.h"
    -#ifdef __MINGW32__
    -#define off_t off64_t
    -#define ftello ftello64
    -#define fseeko fseeko64
    -#endif

     #endif
    --- mfileio.h.orig      2015-06-05 01:15:49 +0900
    +++ mfileio.h   2015-06-05 01:13:38 +0900
    @@ -52,6 +52,11 @@

     extern long file_size (FILE *file);

    +#ifdef __MINGW32__
    +#define off_t off64_t
    +#define ftello ftello64
    +#define fseeko fseeko64
    +#endif
     #define xseek_absolute(file, pos, name) fseeko (file, (off_t)(pos), SEEK_SET)
     #define xseek_relative(file, pos, name) fseeko (file, (off_t)(pos), SEEK_CUR)
     #define xseek_end(file, name) fseeko (file, (off_t)0, SEEK_END)

後は、

    make && make install

です。

***SILE の実行 [#pfce2046]

とりあえず、配布物の examples 以下にあるファイルを処理してみましょう。

**[[Vivliostyle プロジェクト:http://vivliostyle.co.jp/project/]] [#v10e66b1]

HTML+CSSベースの組版システムです。電子出版の時代にマッチする新しい組版システムを、Webブラウザ技術をベースに作ることを目指しています。

現在(2015年6月3日)、入手可能なのはアルファ版のみで、仕様や実装については情報が公開されていません。

-[[Vivliostyle.js:http://vivliostyle.github.io/vivliostyle.js/]]
-[[Vivliostyle Chrome 拡張:https://chrome.google.com/webstore/detail/vivliostyle/ffeiildjegeigkbobbakjjmfeacadbne]]


**[[Weasy Print:http://weasyprint.org/]] [#s618647b]

WeasyPrint は HTML+CSS から PDF や PNG を出力するレンダリング・エンジンです。その目的は出版向けのWeb標準技術をサポートすることにあります。Python などによる実装で、BSDライセンスで提供されています。Pango によるレイアウトと Cairo を用いた出力です。
WeasyPrint は HTML+CSS から PDF や PNG を出力するレンダリング・エンジンです。その目的は出版向けのWeb標準技術をサポートすることにあります。Python などによる実装で、BSDライセンスで提供されています。Pango によるレイアウト(+[[Pyphen:http://pyphen.org/]]モジュールによる自動ハイフネーション)と Cairo を用いた出力です。