* texmf.cnf ファイル [#acde7a64] // 記事タイトルは多分 "Kpathsea ライブラリ"の方が的確なんだろうけど, // 一般ユーザにとって"ライブラリ"は把握が難しいものだからなあ…。 // どうやらライブラリの正式名称は Kpathsearch ではなく Kpathsea らしい…。 TeX および関連ソフトウェアに関する設定は texmf.cnf というファイルで集約して管理されています。((“texmf”の名前は「%%%TeX%%% と %%%M%%%eta%%%F%%%ont」に由来します。)) #contents ** 概要 [#ab004e09] 大昔の TeX 環境では入力ファイルの検索パス等の設定を(OS の)環境変数(TEXINPUTS 等)で行っていました。 TeX 関連のソフトウェアの数や設定項目の件数が増えたためにこの方法での管理は困難となり,「TeX 環境版の環境変数」を管理するためのライブラリである Kpathsea が開発されました。 現在では,TeX Live や W32TeX を含めほとんど全ての TeX 環境がこの Kpathsea ライブラリを利用しています。 Kpathsea における設定データの構造は,OS の環境変数のモデルを基礎としていて,「任意の“変数名”に任意の“値”(文字列)を割り当てる」という非常に単純なものです。 しかし,OS の環境変数と比べて以下のような点で拡張されています。 -設定ファイルの階層化(優先度の順を付けて複数の設定ファイルを利用できる) -プログラム名によって同じ変数の値が異なるようにする TeX 環境での設定項目(変数)の多くは OS の実行パス(PATH 変数)に類似した形式の検索パスリストです。 Kpathsea は,このような変数について単に検索パスの値を格納するのみでなく,実際にファイルの検索を行う機能も備えています。 ** 公式マニュアル [#g7e4e8e4] TeX Live や W32TeX では、以下のコマンドで Kpathsea ライブラリの公式マニュアルを開くことができます。 texdoc kpathsea ** texmf.cnf ファイルの場所 [#r5008864] 現在有効な texmf.cnf ファイルのある場所(これ自体も Kpathsea で管理されている)は次のコマンドで知ることができます。 kpsewhich -all texmf.cnf 最近の TeX Live の場合は,次の例(これは Windows の TeX Live 2016)のように 2 つのパスを返します。 c:/texlive/2016/texmf.cnf c:/texlive/2016/texmf-dist/web2c/texmf.cnf このように複数の有効な texmf.cnf がある場合,前にあるものほど高い優先度をもちます。 つまり,後ろ(低い優先度)の texmf.cnf で設定された値は,前(高い優先度)の texmf.cnf によって上書きされます。 TeX Live においては,この後ろが「マスタの設定ファイル」,前が「カスタム用設定ファイル」であり,ユーザが設定をカスタマイズしたい場合は,c:/texlive/2016/texmf.cnf の方を編集します。 TeX Live のバージョンを跨いで有効であって,上書きされないものは $SELFAUTOGRANDPARENT/texmf-local/web2c/texmf.cnf つまり,上の例では c:/texlive/texmf-local/web2c/texmf.cnf です。 一方,W32TeX においては既定では次のように「マスタの設定ファイル」しかありません。 c:/usr/local/share/texmf-dist/web2c/texmf.cnf 自分用の「カスタム用設定ファイル」は,「マスタの設定ファイル」より優先されるもの,例えば c:/usr/local/share/texmf-local/web2c/texmf.cnf 作成して編集します。これは再インストール時に上書きされることがありません。ここで c:/usr/local とは,インストール ディレクトリであり, c:/w32tex の場合は,それに置き換えて解釈して下さい。 texmf.cnf を“置くことができる”ディレクトリは次のコマンドで調べることができます。((これは Kpathsea で設定された変数 TEXMFCNF の値です。ところが,これは「texmf.cnf の記述により決まるもの」でですから,この値に基づいて texmf.cnf が検索されるというのは論理的に奇妙です。実は,本当の検索パスはここで表示される値とは必ずしも一致しないのですが,「texmf.cnf 中の TEXMFCNF の値を一切変更していない」のであれば,ここで書いた説明が成り立ちます。)) kpsewhich -var-value=TEXMFCNF この出力についても,前にあるパスの方が優先度が高いものとなります。 ** texmf.cnf ファイルの書式 [#uf6ee363] texmf.cnf の中身は次のような感じのテキストファイルです。 % The location of texmf trees. TEXMFROOT = /usr/local/share TEXMFMAIN = $TEXMFROOT/texmf-dist % the main tree TEXMFHOME = ~/texmf % the user tree % Shell-escape settings. shell_escape = p % restricted shell_escape_commands = bibtex,kpsewhich,makeindex,\ mpost,extractbb -‘%’以降はコメントとして無視されます。((ただし,‘%’の前に空白以外の文字がある場合はコメント開始と見なされません。)) - コメント以外の行は以下の書式を持っていて((‘=’の周りの空白は省略できます。実は,‘=’自体も省略できるようです。)),これにより変数の値を指定します。 変数名 = 値 // 変数名.プログラム名 の話はあとで。 - 値の文字列の中で“$変数名”を書くとその値に展開されます。 つまり上掲の例で変数 TEXMFMAIN の値は“/usr/local/share/texmf-dist”となります。 // ブレース展開は値の解釈ではなくパス検索の解釈として行われるらしい。 - 行末の‘\’は行継続を表します。 上掲の例で変数 shell_escape_commands の値は“bibtex,kpsewhich,makeindex,mpost,extractbb”となります。 ** 変数の値を調べる [#ke1c37e3] kpsewhich コマンドは,Kpathsea ライブラリのコマンドラインインタフェースであり,これを用いて現在の変数の値を調べることができます。((ちなみに,Perl や Ruby 等のスクリプト言語で書かれたソフトウェアが Kpathsea 変数の値を読みだす場合は kpsewhich コマンドを実行するのが普通です。)) 例えば,変数 shell_escape の値を調べるには以下のコマンドを実行します。 kpsewhich -var-value=shell_escape ※ shell_escape は[[外部コマンドの実行]]の許可の既定設定を表します。 この変数の値が p ならば -shell-restricted 相当,t ならば -shell-escape 相当,f ならば -no-shell-escape 相当です。 ** 変数の値を変更する [#t6a321fb] 例えば,変数 shell_escape の値を“f”に変更したいとします。 この場合,「カスタム用設定ファイル」である texmf.cnf に以下の行を追記します。 shell_escape = f ※既に「shell_escape = …」を書いた行がある場合はそれを置き換えます。 本家 TeX Live の場合は,tlmgr コマンドを用いて変数の値を設定することも可能です。(これは「カスタム用設定ファイル」を書き換える処理を行っています。) tlmgr conf texmf shell_escape f ** コマンドごとに変数の値を変える [#n3a6270e] Kpatthsea では一つの変数についてコマンドごとに読み取る値を変えることができます。 例を挙げて説明します。 W32TeX および Windows 版 TeX Live の pTeX 系エンジンには入力ソースファイルの文字コード自動判別を行う機能が備わっていて,既定で有効になっています。 Kpathsea 変数 guess_input_kanji_encoding によってこの機能の有効・無効を設定できます。 guess_input_kanji_encoding = 0 % 文字コード自動判定: 1=有効,0=無効 ここで仮に,「pLaTeX (platex コマンド)については自動判定を有効にしたいが,upLaTeX では UTF-8 しか使わないので無効にしたい」と思ったとします。 これは「カスタム用設定ファイル」に次のように記述することで実現できます。 guess_input_kanji_encoding.platex = 1 % 'platex' では有効 guess_input_kanji_encoding = 0 % それ以外('uplatex'等)では無効 kpsewhich で変数の値を調べる時には,“-progname=コマンド名”を付けることで「コマンドごとの値」をみることができます。 kpsewhich -var-value=guess_input_kanji_encoding -progname=platex #==>「1」と出力 kpsewhich -var-value=guess_input_kanji_encoding -progname=uplatex #==>「0」と出力 ** 複数の texmf.cnf の間の優先順位 [#x363c8bc] 先述の通り,texmf.cnf は複数配置することが可能です。 仮に kpsewhich -all texmf.cnf の結果が /path1/texmf.cnf /path2/texmf.cnf /path3/texmf.cnf であったとします。 このとき,「Kpathsea 変数 foo」の値は,次の順で一番最初の空でない値となります。 +OSの環境変数の foo の値 +/path1/texmf.cnf に記述された変数 foo の値 +/path2/texmf.cnf に記述された変数 foo の値 +/path3/texmf.cnf に記述された変数 foo の値 +ライブラリであらかじめ決められた既定値 +以上が全て空ならば空文字列 環境変数に設定されたものが有効であることに注意してください。 これを利用すると,例えば,コマンドシェルにおいて環境変数 shell_escape に‘t’を設定しておくと,「そのコマンドシェルから実行した LaTeX だけ外部コマンド実行を完全許可にする」ことができます。 (コマンド プロンプトの場合) set shell_escape=t (sh や bash の場合) shell_escape=t ** ファイルのパス検索 [#fa110d6f] 例えば,LaTeX で文書クラスに article を指定してタイプセットすると,「インストールされた TeX システムのどこかにある」article.cls が読み込まれます。 これは当たり前のようですが,実はこの「article.cls のあるパスを探す」仕事は Kpathsea ライブラリが担っています。 ライブラリがどのようなパス検索結果を返しているかは,kpsewhich で知ることができます。 kpsewhich article.cls Windows 版の TeX Live 2016 では次のような結果になりました。 c:/texlive/2016/texmf-dist/tex/latex/base/article.cls パス検索についても,コマンドによって検索対象のパスを変えることができます。 例えば pstricks.con([[PSTricks]] の設定ファイル)は XeLaTeX の時だけ違うものが読まれるようになっています。 kpsewhich pstricks.con -progname=latex #==>「c:/texlive/2016/texmf-dist/tex/generic/pstricks/pstricks.con」と出力 kpsewhich pstricks.con -progname=xelatex #==>「c:/texlive/2016/texmf-dist/tex/xelatex/xetex-pstricks/pstricks.con」」と出力 *** パス検索の手順 [#j7738f5b] Kpathsea によるパス検索は継のような手順に従って行われます。 例えば検索対象のファイル名を“article.cls”とします。 +“article.cls”のファイルタイプを決めます。~ →結果は“tex”~ ※ファイル名(多くは拡張子)から判断されます。 この規則は決め打ちになっています。 +ファイルタイプ“tex”のための検索パスリストの変数を調べます。~ →結果は“TEXINPUTS”~ ※この規則も決め打ちです。 +変数“TEXINPUTS”の値を調べます。~ →結果は“.;C:/TeX/texmf-local/tex;C:/TeX/texmf/tex”~ ※この際に一般の Kpathsea 変数の参照の規則が適用されます。 例えばコマンドごとに異なる値にもなり得ます。 +結果の文字列を区切り文字‘;’で分割し,得られた各々の文字列の示すパスの下に“article.cls”を付けたものを探索の候補とします。~ →次の3つになります。((実際の TeX 環境では TEXINPUTS がこんな単純なリストではありえませんが,例が煩雑になるのを避けました。)) // 少なくとも再帰探索指定(//)はどこかにあるはず。 --./article.cls --C:/TeX/texmf-local/tex/article.cls --C:/TeX/texmf/tex/article.cls +このリストの中で実際に存在する最初のパスが検索結果となります。~ ※どれも存在しない場合は結果は空です。 この場合 kpsewhich は何も出力しません。 //全部返す(-all)こともできる。この辺のモード指定の話を後でまとめる。 ※パスリストの区切り文字(‘;’)とパス内の階層の区切り文字(‘/’)は OS の種類により異なります。 ‘;’と‘/’は Windows の場合です((Windows API 自体は階層区切りとして‘/’も‘\’も使えますが,Kpathsea では‘/’を使っています(多分 Unix 系と共通にするため)。))。 実は Unix 系 OS ではリストの区切り文字は本来は‘:’なのですが,「texmf.cnf ファイルを Windows と Unix 系で共通に書ける」ようにするため,Unix 系では変数値の中の ‘;’ が ‘:’ に変換される仕組みになっています。